女性専用車両
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小説 白鳥の王子
3月29日記念 フランソワーズとジェットとジョーの青春モノ だけど ジョー総受け
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イラスト
これだけではあまりに寂しいので、「29シャッフル」のBLシーン
客室は皆が通常使っている部屋のある階の一つ下、リビングを通り過ぎた一番奥にある。
別世界から来たジョーがそこに滞在するようになって、客室のドアは特に理由がない限りいつも開いていた。
――中で何をしているかわからない・・・
そんな不信を皆に与えないよう、彼なりの配慮であるのかもしれなかった。
リビングから各々の部屋に皆が引き上げ、最後にジェットが出たとき、客室のドアはやはり開いていた。だが灯はともっておらず、窓から差し込む月の光が部屋の床に濃い影を落としている。
――さすがに就寝時はドアを閉めるはずなのに・・・
覗いてみると、窓辺に佇んでいるジョーがいた。客室の大きな窓から満月を見上げている。
この世界のジョーより背が高く、わずかに赤みがかった琥珀色の髪が 冴えた秋の月にきらめいていた。
人の気配に振り向いて ジェットを認めると別世界のジョーは微笑んで入室をうながした。
「まだ眠らないのか?」
「いや、もうそろそろ休ませてもらうよ」
ジョーがこちらを向くと、服の袖が不自然に揺れた。
――右腕が・・・ない?
表情を硬くしたジェットに気づいたらしい。
「ああ、やっぱり調子が悪くて・・・。いまギルモア博士が調整してくれてるんだ。」
設計の違いで不具合が起こるかもしれないから大した修理はできないが、できる限りの処置をしてくれていると説明した。
月の光の中で見るせいか、ジョーは今までとは違った雰囲気をまとっている。ジェットよりは少し黄みがかった肌は金色に輝き、腕を失っているせいだろうか?線が細くて・・月に溶けてしまいそうな儚さを感じる。
そんなジェットの印象を裏付けるかのようにジョーは静かに言った。
「ごめん、・・・。僕が来たせいで君たちには迷惑をかけているね。この前の戦闘も 助けるつもりが逆に助けてもらったし。」
「いや、あのときは・・・。」
言葉が選べずに ぶっきらぼうに口ごもるジェットにジョーが告げた。
「腕、直してもらったらすぐ出て行くよ。」
ジェットは驚いて言った。
「出て行くって・・・どうするんだ?まさかお前一人であのバケモンを倒すっていうのか?」
「もともとそのつもりだったんだ。あれは僕たちの世界から来た災いだ。この世界の人たちを危険な目に合せるわけにはいかない。大丈夫だよ。僕だって多少の戦闘経験はある。」
それはわかっている。
あの時の戦いっぷりは 別世界のジョーが相当な修羅場をくぐってきた歴戦の勇士であることを証明していた。だが・・・。
「早くこの問題を片付けて、こっちのジョーを君のもとに・・・いや、とにかく君たちを危険な目に会わせたくないんだ。あの時だって、君を危うく死なせてしまうところだった。」
「馬鹿か!おまえは。」
思わず荒い声になる。
「武器はどうする?俺たちの助けなしで手に負える相手じゃないぞ。それに俺が危なかったのは 俺の意思でドルフィン号を出て戦っていたからだ。お前のせいじゃない!」
数歩歩み寄って、ジェットはなぜ急に彼がこんなことを言い始めたか気付いた。
客室の壁には鏡がかかっており、ジェットの顔が映っていた。口はへの字に引き閉じられ、つり上がった眉の下にはいつもより凄みの効いた三白眼が剣吞な光を湛えている。
この部屋に入ってきたときから・・・いや数日前、戦闘を終えてギルモア邸に戻ってきたときから ジェットはずっとこの表情を張り付けていたのだ。
――ちがうんだ。
――俺が怒っているのは・・・腹を立ててるのは・・・
――おまえが負傷したのは俺のせいだからだ。
こちらのジョーが消えて別世界から来たという「ジョー」が現れた日の午後、正体不明の怪物出現の報がもたらされた。
「ジョー」は一緒に戦うと言い張った。その申し出を断ったうえ、「ジョー」に装備と武器を与えることをジェットは反対した。
正体不明の人物に背中を預けて戦うわけにはいかない。ましてやサイボーグ用の強力な武器を持たせるなんて!アルベルトも同意見だった。
結果、ジェットの危機にかけつけたジョーは身を守る防護服もなく、ろくな武器もない状態で戦わなくてはならなかった。 敵の爪に囚われたジェットを助けようとしてジョーは右腕を負傷した。
そんなわけで、かろうじて敵を退け、彼がこの家に滞在するようになってから、顔を合わす度にジェットは湧き上がってくる不機嫌を持て余していたのだ。
また、別世界のジョーに武器を与えなかった理由の陰に 実に子供じみた感情があることに気づいていた。
ジェットは単に嫌だったのだ。
ジョーのいるはずのポジションに他人が入り込み、ジョーの銃を使い、同じ服を着て戦う。
こともあろうに、世界が違えど同じ「ジョー」を名乗る人物が!
行方不明のジョーを差し置いて、違う「ジョー」がメンバーの一人として置きかわる・・・。
悪い夢のようだ。
さらに戦闘中、彼が発したひとことが顔を合わす度によみがえり、ジェットをイラつかせた。
化け物の爪に捕われたジェットをジョーが助けに来た時。ジョーの作るごくわずかな隙に怪物の攻撃をかいくぐり空に逃れろと当然のように指示された。不可能だと告げると、
「きみ・・・加速装置搭載してないの?」
驚いたジョーの顔。
思い出すたび、はらわたが煮えくりかえる。
あいつの世界のジェットには加速能力があるのだ。
ジョーと肩を並べて共に戦う力を持つ「ジェット」!
自分のように足手まといにはならないはずの。
今までの戦いで、何度も思った。せめて半分の能力でもいい、この身体に加速装置が搭載されていたら・・・
ジョーひとりを危険な場所に行かせずにすむ。彼の重荷をいくらかは背負ってやることができる・・・
ずっと抱いてきた自分の不甲斐なさを よりによって「ジョー」に突きつけられてしまった。
嫉妬と後悔 それらを隠れ蓑にする劣等感・・・・。
すべてが静かな秋の月夜にあって ジェットの心を熱く波立たせるのだった。
自己嫌悪の表情を読まれまいと顔を背けるジェットを ジョーは不思議そうに見つめて そして微笑んだ。
「世界が違ってもジェットはジェットだね」
ふっと周りの空気がほぐれた。
「この世界に逃げ込んだ悪魔を追うと決めたとき、当然だけど僕は覚悟して来たんだ。頼る人はいない。たった一人の戦いになると。」
「なのに、みんながいるとは思わなかった。目が覚めると君が隣にいて・・・。
とくに君が僕のジェットとよく似てたから・・・どこかで繋がってると感じたから・・・つい甘えてしまった。」
明るい髪に縁取られた顔は ジェットの知っているジョーの表情とよく似ていた。確かに性格も容貌も同じではないけれど、彼が言う通り二人のジョーはどこかで深く繋がっているのかもしれなかった。
「おれがお前のジェットとどこかで繋がっていて・・・、お前は俺のジョーと繋がってのか?」
「そう、たぶん・・・。
感じないかい?きっと今、彼も月を眺めて僕のジェットと語り合ってる。」
窓の外では秋の冷たい夜風が木立をくすぐっていた。大きな月からは冴えた光が地上に降り注いでいる。
この世界にいるジェットと別世界から来たジョー、別世界のジェットとあちらに行ってしまったジョー。
月を中心に4人が向き合い、二つの世界がくるりと重なった。
向き合ったお互いの向こうに、想い人の姿が見える・・・。
月の光の中、二人は静かに口づけを交わした。
ふと我に還り、何をしてるんだかと横を向くジェットに、ジョーはさらに口付けた。
「ジェット・・・・」
ジョーの唇がもう一度頬に触れる
「ジェット・・・ジェット・・・」
瞳はわずかに潤み、声は熱く湿っている。
ジェットはジョーが元の世界を想って月を眺めていたのだと気付いた。
何もかも置いて、身体一つでこの世界に放り込まれたのだ。不安で・・・想い人を請わないわけがない。
ジョーは今まで押さえ込んでいた感情の堰が切れたのか、左腕をジェットの首に回して抱きしめた。が、片腕がないせいか力のバランスが取れずよろめき、慌てて抱きとめようとしたジェットと ベッドに倒れこんでしまった。
ジョーの胸に耳をつけるかたちで乗ってしまったジェットは 室内着の内側に細身でありながらしっかりと筋肉が根をはる青年の肉体を感じた。
「おれのジョーはもっと華奢で柔らかい体をしている・・・。」
ジェットのつぶやきにジョーはくすりと笑った。
「髪は?」
琥珀色にきらめく糸をすくと 記憶にあるジョーの髪よりやや硬い。
「違うな。色だけじゃなく・・・俺のジョーの髪はもっとふわふわしてる。猫っ毛っていうか・・・」
「じゃあ、肌のにおいは?」
おもわず近づけた鼻先を ジョーが軽く噛んだ。
「ふがっ。なにする・・・」
「僕のジェットの鼻より少し細長いね。」
楽しそうにクスクス笑う。
「それに味もちょっと違う。」
言い返そうとするジェットに先んじて 服のあわせをすべて解放し、上半身をはだけた。なめらかな肢体が月光を受けてほのかに輝いた。
「君のジョーと僕、・・・あとはどこが違う?」
大胆な行動とは裏腹に、目は伏し目がちで声はわずかに震えている。
ジェットは手を伸ばし、頬から首筋、鎖骨へとゆっくりなぞった。
「ぜんぶ・・・ちがうな・・・。俺のジョーはどちらかというと少年の身体だ。お前は・・・」
「ぼくはおとなの・・・あっ。」
ジェットの服の袖口が胸の突起にふと触ったのだった。
思わずあげてしまった声に ジョーの頬がみるみる紅く染まる。
おや・・とばかりに 今度は指先で極力よわく触れると、かすかな感触に一つ一つ身体は反応し、それらをジョーは無理に抑え込もうとして唇を噛み締めていた。
染めた横顔を ジェットは初めて可愛いと思った。顔を両手で大切に包み込み 長い長いキスをした。
緊張できつく噛み締められている歯列をゆっくりとなぞると、ジョーはやがておずおずと応えはじめ、唇の間から漏れる荒い呼吸がときおり静寂の中響いた。
舌をからめあいながら 片手をジョーの肌にゆっくりと這わせていくと・・・。
ジョーはおどろくほど ジェットの想い人と同じ反応を返した。
肋骨を一本一本やさしく確かめるたびに ジェットの指の感触に全感覚が囚われて一瞬動きが止まる。舌の先を尖らせてやや乱暴に口腔を荒らすと、わずかに怯えたように目を見開き、シーツを握りしめる・・・。
入れ物は違えど、俺のジョーとこいつは やはりどこかでつながり合っているのだと感じられた。
ジェットの指が右の首筋から腕の付け根へと移動した時、ジョーはピクリと硬直した。右腕がない今、本能的に弱点に触れられるのを恐れたのかもしれなかった。
「大丈夫。触らない。」
右肩から突き出た剥き出しの機械部分が 甘やかな逢瀬の場に無骨に浮かんでいた。
「ごめん、興ざめだよね。」
ジェットは横たわるジョーの身体を 膝をついて見下ろした。
すでに上半身の部屋着はベッドから床に落ち、わずかに黄金色を帯びた身体が月光に浮かび上がっている。
「腕がなくても・・・いや ないからこそミロのビーナスは美しいんだ。」
ジョーはぷっと吹き出した。
「カッコイイこと言うのは 僕のジェットと一緒だね。」
クスクス笑う前髪をかきあげて、今度は軽いキスをおとす。
このジョーも 向こうに残してきたジェットを自分の中に探しているのかと思うと不思議な気分だった。
開放されていた客室のドアが 内側からパタリと閉じられた。
秋の夜は長い。
お互いの中に 別世界にいる想い人を探す旅は 始まったばかりだった。
終